姫乃さんとのデート。提案したのは俺だけど、思ったよりも楽しみにしていた。今日の彼女はどんな顔を見せてくれるのだろう。それを想像するだけで頬が緩む。
博物館に行きたいと言った姫乃さんは、デートっぽく博物館前で待ち合わせしたいというので、なるほどそれがやりたいならそうするかと了承したのだが。
マンションを出たところでバッタリ姫乃さんと出くわした。
まあ、そうだよな。同じマンションに住んでいるし、同じように家を出るよな。おはようと挨拶する姫乃さんは少しがっかりした様子だったけれど、ここで別れていくのも変な気がして一緒に博物館に向かうことにした。
混んでいる電車では、姫乃さんの行方が気になってしまう。放っておくとすぐにどこかに流されてしまう彼女を、どこにも行かないように端に寄せた。
ふわりと鼻をくすぐる甘い香りは、姫乃さんがすぐ近くにいることを感じさせる。女性らしさにドキリと胸が騒ぐ。
と――。
電車が揺れた拍子に姫乃さんが俺の胸にダイブした。
「うぐっ!」
姫乃さんらしからぬくぐもった鈍い声。意外と衝撃があったから、姫乃さんも痛かったかもと思い顔を覗き込めば、鼻を赤くしていた。
なんだこれ、可愛い。
「ぼんやりさん」
「だって電車が急に揺れるんだもの」
「はいはい、つかまっててください」
その辺の手すりとか吊革にね、と思ったのに。
まさかのシャツの袖を掴まれて驚いた。俺の心を掴みに来たのかと思った。
「そこかー」
思わず心の声が漏れる。
はっとなって手を離そうとするので、「それでいいです」と肯定した。
なんだこれ、可愛いかよ。